この15年で「増えた仕事」「減った仕事」は何か

介護職員は2025年に約38万人足りなくなる――。厚生労働省は6月に公表した推計で、介護業界が将来、深刻な人手不足に陥ると警鐘を鳴らした。介護業界だけではない。飲食、小売りなどのサービス業、建設、土木、運輸など、現状でも人手不足の課題は深刻。その背景には、労働力人口全体の減少と、成長産業へ本来シフトすべき職業構造の変化の遅れがあると言われる。

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しかし、実際には日本の職業構造は劇的に変化している。8月28日発売の『会社四季報 業界地図2016年版』では、直近の国勢調査(2010年)を基に、職業別就業人口が15年前からどれほど変化したかを独自計算。職業分類の変更により比較困難なものは省略し、1995年~2010年に日本国内で「増えた仕事」「減った仕事」の上位20のランキングを掲載した。■ 介護職員や看護師が急増

 「増えた仕事」1位は介護職員。15年間で約100万人増えたが、それでも人手不足が深刻化するほど、高齢化で市場が急成長している。その他、看護師や訪問介護従事者、看護助手などの伸びも目立つ。

 販売店員も51万人増加。清掃従事者や調理人などのサービス業も、就業人口の増加傾向が見られる。共働きの増加の影響か、保育士も16万人増加している。また製造業の中でも、日本勢が強さを保つ自動車の組立従事者は増加。内需が底堅い食料品も製造従事者が増えている。

 一方、「減った仕事」のランキングを見ると、1位は農耕従事者。元々、国勢調査の農林漁業関係職業は、戦後の1950年には1700万人以上と、就業人口全体の約5割を占めたが、そこから農産物の輸入増加や生産性向上に伴い、急激に減少。現状でも減少傾向は続いており、2010年の農耕作業者は181万人へと、15年間で126万人減少した。

 ほかに減少幅の大きさで目立ったのは、会計事務従事者。15年間で100万人以上が減少した。

 米国の経済学者であるエリック・ブリニョルフソン氏とアンドリュー・マカフィー氏が書いた『機械との競争』では、人間の仕事がコンピュータに取って替わられる実態が問題提起されたが、会計事務従事者の減少の背景にも、会計ソフトウェアの普及などテクノロジーの発展がありそうだ。

 土木や大工、測量、建築関連の作業員や技術者も、1995~2010年にかけて大きく数を減らした。目下、アベノミクス効果で土木・建設の需要は急増し、人手不足が深刻化しているが、直近の就業人口の減少がその一因といえそうだ。

 また電機業界においても、国際競争力の低下、海外への生産移転を背景に、業務用機械器具、電気機械器具の組み立て従事者が減少している。

 さらに印刷・製本従事者も16万人減少。印刷業界は市場規模がピークの1991年には8.9兆円だったが、2013年には5.5兆円にまで縮小している。

 原稿の文字入力、写真の色分解など、かつて印刷会社の作業員が手掛けていた仕事は、コンピュータに取って替わられて久しい。さらにデジタル化によって出版印刷物そのものの減少が続いていることで、同業界の仕事の縮小に拍車をかけた。

■ 製造業の就業比率は24%から16%へ

 『業界地図2016年版』では、こうした「増えた仕事vs.減った仕事」のランキングに加え、大きく産業別に分けた人口変遷も掲載した。自動車から流通、生活・公共サービスまで、計168の業界の勢力図をマッピングすることで最新の仕事のトレンドが浮かび上がる。

 それによると、1990年に就業人口の約24%を占めていた製造業は、2010年には約16%にまで縮小。7%だった農林漁業は4%に減少している。一方で1990年に約23%だったサービス業は、2010年には約34%にまで伸びた。職業別、業界別の就業人口の変遷の背景には、産業ごとの栄枯盛衰の物語があるのだ。

許斐 健太

最終更新:9月4日(金)17時45分

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