「そごう柏店」を撤退に追い込んだ過酷な事情

「ああ、ここもなくなってしまうのね」――。JR柏駅前にそびえる“思い出の場所”を前に、通りがかった年配の女性はそう嘆いた。

【地図あり】激化する柏の商業施設バトル

 セブン&アイ・ホールディングス(HD)は3月8日、運営する西武旭川店(北海道)とそごう柏店(千葉県)の2つの百貨店について、2016年9月末に閉店すると発表した。好調なコンビニエンスストア事業とは対照的に苦戦する百貨店事業のリストラに踏み切り、経営改革のスピードを加速させる狙いだ。

 「グループの利益が最大の今だからこそ、構造改革を進める」。記者会見に臨んだセブン&アイHDの村田紀敏社長はこう強調した。百貨店閉鎖に加え、同じ傘下の総合スーパー(GMS)のイトーヨーカ堂についても、2017年2月期中に20店の不採算店閉鎖に踏み切る。

 閉鎖する百貨店2店舗で働く社員は、そごう・西武のほかの店舗へ配置転換する。契約社員については、閉店となる9月末で契約切れとなる。今回の閉鎖に伴い、2016年2月期に15億円前後の特別損失を計上するほか、本部要員を100人削減し、店舗へ配置することで現場のサービス力強化につなげる構えだ。

■ 旭川と柏では事情が異なる

 百貨店は都心の大型旗艦店を除くと、苦しい状況が続いている。今回閉鎖する西武旭川店は、その顕著な例の1つだ。旭川市の人口は1998年(36.4万人)以降、少子化や転出超過で減少の一途をたどる。2015年9月末では34.5万人となった。こうした状況から、「地方都市は百貨店が1店舗しか存続できないマーケットになった」(村田社長)。

 だが、柏市は事情が異なる。東京のベッドタウンである同市は、旭川市とは逆に人口が増加している。2016年3月時点の柏市の人口は41.4万人と、10年前から3.3万人増えている。にもかかわらず、そごう柏店を閉めるという決断に至ったのはなぜなのか。

 会社側が理由に挙げるのは、競争環境の激化だ。

 1973年10月にオープンしたそごう柏店は、駅を挟んだ向かい側に同時期に開業した柏高島屋、同じ東口で1964年から営業を始めていた丸井柏店と競い合う形で、成長を遂げてきた。売上高は1991年2月期に590億円とピークを迎えた。

 が、2000年代に入ると、半径5キロ圏内に次々と大型のショッピングセンター(SC)が進出。イオンモール柏をはじめ、流山おおたかの森S・C、ららぽーと柏の葉が相次いで開業した。

 こうした逆風に、そごう柏店も手をこまぬいていたわけではない。大型SCがファミリー層をターゲットに位置づけるのに対し、そごう柏店はシニア層にターゲットを絞った品ぞろえやサービスに力を注いできた。2012年には百貨店内にカルチャーセンターを誘致し、俳句や短歌、音楽やダンスの講座を開くなど、シニア客の流入を図った。

 「これらの取り組みは一定の成果があり、シニア客に絞った売り上げは回復トレンドにあった」(そごう・西武)。ただ、結果としては、シニア層以外の施策が乏しく、店舗全体の売り上げの減少に歯止めをかけることはできなかった。直近の2016年2月期の売上高は115億円と、ピーク時の2割程度にまで落ち込んでしまった。

■ 攻勢を強める大型SC

 一方、これまでは家族客に狙いを定めてきた近隣の大型SCは、シニア層を含む3世代の囲い込みに注力し始めている。

 「フードコートはナショナルチェーンだけではなく、素材にこだわった付加価値の高いテナントも増やすことで、幅広い年齢層に受け入れられるようにしている」(ららぽーと柏の葉を運営する三井不動産)

 こうした取り組みが功を奏し、ららぽーと柏の葉は開業直後の2008年度は168億円だった売上高が、2014年度は222億円にまで増加した。この勢いは柏に限ったことではない。全国各地の大型SCはおおむね順調に客数を伸ばしており、今後も未開拓地域への進出を続けていくとみられる。

 セブン&アイHDの村田社長は「閉店する2店を除いた既存の百貨店については、黒字を確保できている」として、残る21店の百貨店については存続させる意向を示した。ただ、柏の事例のように近隣で競合SCの進出が相次げば、現在は黒字を維持している店舗も安泰とはいえない。人口増加が続く柏での撤退は、郊外都市における百貨店閉鎖ドミノの序章となるかもしれない。

又吉 龍吾

最終更新:3月13日(日)16時40分

東洋経済オンライン